人気ブログランキング | 話題のタグを見る
ポッポの物語
店をやっていた時のこと。
ショッピングセンターの3Fにあるうちの店は中庭と隣接していたんだ。
中庭は四方をガラスで囲まれていて、食事をしながら日本庭園を楽しめる様になっていた。

いつからかそこに一匹の鳩が住み着くようになった。
よく見ると片方の羽がだらりとしている。どうやら大きなガラス窓に激突して飛べないらしい。
地べたをうろうろと歩いている。

日本庭園といっても草木が植えてあるだけで、鳩の食べるものなんかないし、いつか餓えて死んでしまうかも知れないので、鳩の餌を買ってきてその辺にばら撒いてあげてたんだ。
そのうち羽が直ったら飛べるようになるだろうと思って。

でも、いつまで経っても鳩の羽は力なく垂れ下がったまま。

いつのことだったか沢山の雨が降って、中庭も水浸しになった。外は冬。鳩の餌も食べられたもんじゃないだろうし、巣もないそいつは羽毛を逆立てて水溜りの中で寒そうにしてた。
このままでは死んでしまうと思って、そいつを保護することにした。したのはいいが、こいつがなかなかすばしこい。捕まるまいと逃げ回る鳩を追い回す俺の姿はきっと面白かっただろうな^^

口ばしであちこち突つかれながら、やっとそいつを捕まえて、ダンボールに入れて家に連れ帰った。
ポリバケツにお湯を入れて鳩をその中に入れてあげた。よほど気持ちがいいのか鳩は目をつぶってじっとしていた。知らないだろうけど、鳩は水鳥でもないのに水に浮かぶことができるんだよ。

30分ほどお湯に浮かべていると羽の中から、小さな虫が出てくる出てくる。びっくりしたよ。野生の鳩ってこんなに沢山の虫に寄生されてるのか。
すぐに除虫剤を妻が買ってきてくれた。それを羽にまぶしてやると、すごい数の虫が新聞紙の上に落ちて死んだ。気色悪かったけど、コレでこいつも身体が痒くなることもないだろう。

こっちの好意も知らずに、手負いの鳩はすごく警戒していて、近づくとすぐに手に噛み付いてくる。部屋の中では落ち着かないだろうからダンボールで巣箱をこしらえてあげてベランダで買うことにした。名前はポッポに決まった。

妻が動物病院に連れて行って診てもらうと、骨は折れていないので後は本人のやる気次第、と言う診断だった^^;

餌を与えているせいか段々と元気になっていくポッポだったが、体力がつくにしたがって一層攻撃的になっていった。巣箱を掃除しようとすると滅茶苦茶に突付いてくるから、すごく痛い。

それでも何とか飛べる様にしてやりたいので、部屋の中で低いところから放り投げたりして羽ばたく練習をさせていた。ポッポにとってはいじめられてるとしか思えないだろうけど、しょうがない。

時折、複数の鳴き声がするので、気づかれないようにベランダを覗くと、どこからか鳩の友達がやってくるようになっていた。

どうやらうちの家族はポッポに嫌われているようなので、なるべく構わないようにしてたつもりだったけど、それでもストレスが溜まっていたらしい。ポッポは自分の胸の羽毛をむしるようになってきた。円形脱毛のように羽が抜けて地肌が見えて痛々しいが、軟膏を塗ってやるぐらいしかできることがない。
これ以上飼っていてもかわいそうだから動物園に預けた方がいいのかな。
妻とそんな話をしていた。

そんな矢先のある朝、ベランダを覗くとポッポの姿はなかった。
4Fのベランダから飛び降りたようだ、すぐに下に降りてベランダの下の植え込みや溝や建物の隙間を探したけど、ポッポの姿はなかった。
道路に飛び出して、車に轢かれてるかもしれないので、近所の道路を探し回ったがどこにも見当たらなかった。

あいつは飛んで行ったんだろうか。
あるいは猫にやられてしまったかも知れない。
いずれにせよ、野生のあいつは最後まで野生を貫き通した。
俺はあいつにとって迷惑な存在でしかなかったんだな。ごめんよ。


ポッポの物語_c0112583_29012.jpg
あれから何年も経つけれど、近所で鳩の群れを見ると片方の羽が下がってるやつがいないか探してしまう。
by shigekings | 2007-03-25 02:09 | 回顧録
<< 赤は止まれ、黄色は注意、青にな... くずは >>